妄想を文字にしてみました。

蘭夜雫'sブログ更新お知らせ

■日記ブログ ORCHIDEA 鬱蒼と更新中

■飼犬ブログ バケッたぬ ベロ出し更新中

■小説サイト cieLo 08/21 更新 

確かにまだ沸騰の気配が残っている。
薄いテフロン加工の鍋かと思ったが、よく見るとどうやら鋳物らしい。
これは、それだけでも重いだろうな、と思った。

「やだあーっ!死んじゃうよお、クミッ!こんなの飲んだら死んじゃうーっ!」
「そうですよぉ。カホ様、死んじゃいますぅ」
「大げさだなあ。こんな程度で死なないよ。僕が生きているのがその証拠さ」
「私とトモは体の構造が違うんだよう。私の舌は、繊細なんだから」
「そうですよぉ。カホ様の舌は、千載(せんざい)の老舌(おいじた)なんですよぅ」
「あら?蛇舌(へびじた)の間違いじゃないの?」
「え?牛舌(うしじた)だっけ?カホは?」
「毒舌(どくじた)はクミだけどね」
「違うますよぅ。カホ様は鳥舌(とりじた)なんですよぅ」
「違うでしょう。カホは虎舌(とらじた)なんだよねえ?野杵島さんがそう言ってたよ」
「違うようっ!私は巻舌(まきじた)なんだよっ!だから熱いのはダメなんだってばあっ!」

どれもこれもが、違うと思った。
決定的に、カホ。お前の言っていることが、最も間違えている。
巻き舌って言うのはべらんめい調で話すことだ。

どうでもいいから、早く石狩汁をついでくれないだろうか。
さっきから、ハジが辛そうに鍋を持っているのが気になって仕方がない。
下手をしたら、いまにも落としてしまいそうなほどの困った顔になっていた。
想像以上に、あの鍋は重いに違いない。
そして、時折顔をゆがめて、眼鏡越しの目を何度もパチパチさせているのは、
顔にかかる湯気が不快だからなのだろう。

だが、いまだに喧々囂々と沸騰させたことを言い合っている奴らを見ていると
きっと課長も含めた全員がそれを知っていて、
ハジに嫌がらせをしているのだとしか思えなかった。

気の毒な隊長だ。
隊長の器ではないのかもしれないが、だからってこんな仕打ちを受けることはないだろう。
どこまでも子供じみた奴らだと、人知れず嘆息した。
自業自得だとは思いつつも、ほんの少しだけハジに憐憫の情が湧いた。
そして、どんな間違いが起こっても、こいつらの上官になることだけは
辞退した方がいい、と思った。

こんなバカな奴らとやっていける自信は持てそうにない。
一緒にいれば、カホの着ぐるみ姿と同様に、いつかは本気で
息の根を止めてやりたくなるに違いない。
そうなる前に、ここを去った方がいいだろう。
それは、自分にとって屈辱的なことではあるけれど、それよりも自分の理性が
保ち続けられなくなった時の事を考えた。

顔を見なければ、何とかなる。
一緒にいなければ、傷つけることはない。
だから、俺は。
だから・・・